| スポーツ: | その他 |
|---|---|
| 大会名: | ロスタイム #12 紙一重 |
| 開催日: | 2010/08/24 ~ 2010/08/24 |
| 会場: |
コラム ロスタイム
新井野 洋一(愛知大学教授)
(12) 紙一重
8月11日から1週間、愛大硬式野球部の夏季キャンプ(北海道夕張市拠点)に同行した。天候にも恵まれて、オープン戦を含め予定のスケジュールを無事にこなすことができた。新井野は、その間、北海道のまちづくりの調査を行ってきた。夕張市の職員と廃校になる小学校の視察をしたり、スポーツ施設の改善策を検討したり、観光振興の方向性を語り合ってきた。最近、スポーツをまちづくりや地域の活性化に活かすことに奮闘しているのだ。豊橋市や愛知大学と北海道との交流も増やしたいと考え、野球部員たちには夕張のある商店会の盆踊りにも参加してもらった。愛大から福引抽選会の賞品も出させていただいた。若者の熱気が、夕張市民に癒しとなってくれたろうか。
『さよならアルマ』(サンクチュアリ出版、8月30日発行、第二次世界大戦中の軍犬と人間の絆を綴った小説)という本を携行した。著者は、綾瀬はるかさん主演の映画『おっぱいバレー』の原作者で、アニメドラマなどのテレビ番組の構成や脚本で活躍している水野宗徳(みずのむねのり)氏だ。彼は、愛大の卒業生で、新井野は深く長い付き合いを続けている。学生の頃は、同級生とコンビを組んであちこちのコンテストで優勝する落語研究会部員で、たまたま新井野がその時の顧問だった。卒業間際のある日、芸能プロダクションと月数万円の給与で契約したという報告を受けた。「芸能界はそんなに甘くない。3年間で芽が出なかったら戻ってこい」と無責任な贈る言葉を発したように記憶している。案の定、うまくはいかなかった。でも、水野君は、諦めなかった。持ち前の文章能力、構成能力を活かして、さまざまなテレビ番組で活躍するようになった。結婚パーティに招かれた時のそうそうたる列席者が、活躍の大きさを証明していた。
水野君は、大学の授業に関するノートの数十倍いや数百倍の「ネタ・ノート」をつくっていた。居酒屋で新井野と野球部の水田君らと一杯やったことなども、もしかしたら、ネタにされていたのかもしれない。努力と精進のすばらしさを称えたかっただけではない。「ネタ・ノート」の質が高かったことが、現在の活躍につながったことと思ったからだ。きっと今回も、丁寧で正確な取材や資料の解読を克明にノートしたに違いない。
スポーツのさまざまな場面では、思いつかないことがたくさん起こる。たった一つのエラーが敗北を決定したり、残り数秒のシュートが勝利を導いたり、時に「神様のいたずら」と言われるほどだ。第2回目の『ロスタイム』で、スポーツでは、「もう少し練習しておいたら」とか「あの場面でこうしていれば」といった「たら・れば」は禁句だと話したが、問題は、それらが高いレベルと紙一重であったかどうかだ。ただ、紙一重は、数量化しにくいことも事実だ。スコアやタイムの僅差が紙一重とは言い切れないからだ。だから、神様のせいにするのかもしれない。
競技スポーツでは、どんな勝ち方でも勝ちは勝ちだし、内容か良くても負けは負けだ。それでいいのだろうか。すべてが同じ1勝、同じ1点、同じ三振と言えるだろうか。自分が求める最高のプレーとチームの求める勝ち方があるはずなのだ。それに近いところで勝負が行われたとすれば、失敗や敗戦は紙一重の結果となる。紙一重のサーブミスや空振りは、間違いなく次につながるに違いない。スポーツを心から楽しむ。スポーツで人間関係を深める。スポーツで日本一を追求する。すべてが、紙一重であってほしい。
もうすぐ9月。夏の間に頑張った練習の成果が試される時期を迎える。スポーツとの接し方や楽しみ方、技術やトレーニングの質、チームの雰囲気など、紙一重に近づいたか、しっかりとしたネタづくりができているかを確かめる時期だ。トレーニングの量や練習試合の結果に自信を持つことも大切だが、常に高いレベルを目標に、紙一重のプレーとチームづくりに努力してほしい。そういうトライとエラーこそが、指導者が求める状況なのだ。練習の日々とは、すばらしい作品のためのネタづくりの日々なのだ。さらに、そのネタが質の高いものでなければならないことを再確認してほしい。ネタづくりが嫌になったら、勝負に臨む姿勢を失うことだ。うちの野球部にそんな部員がいないことは幸せなことだ。
『さよならアルマ』の表紙裏には、水野君の自筆のサインとともに、「勝負作です!」「ご感想お待ちしています」とあった。文芸評論家でもなければ文学者でもない新井野が彼の作品を論評すことはできない。しかし、提示されていた参考文献の多さと読み終えた新井野をあっさり号泣させるワザからは、ベストセラーを目標に紙一重の戦いをしていることが強く伝わってきた。新井野は、「子どもは親を超え、教え子は恩師を追い抜く義務がある」と言い続けてきた。「超えられ、追い抜かれるのも案外爽快なもの」と知ることができた夏休みだった。ありがとう。
プロフィール
新井野洋一新井野洋一<NIINO YOICHI>
愛知大学経済学部教授(スポーツ経済・社会学)
体育研究室長、硬式野球部・ハンドボール部・応援団部長

【過去5回のロスタイム】
第11回インターハイの心
第9回引き分け
第8回人生で大切なこと
第7回アダプテッド・スポーツ
第6回鳥になりたい
※第10回原稿は、期間限定掲載だったため、バックナンバーに加えていません。












